『世界』5月号(岩波書店)に「ストーカー規制法改正 施行後20年で見えた課題」を寄稿しました。

『世界』5月号(岩波書店)に「ストーカー規制法改正施行後20年で見えた課題」を寄稿しました。

テーマ「ストーカー規制法改正 施行後二十年で見えた課題」

以下抜粋です。

ストーカー規制法の目的と効果

セクハラ、パワハラには行為自体を取り締まる刑罰法令はないが、ストーカー規制法は「何人も、つきまとい等をして、その相手方に身体の安全、住居などの平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせてはならない」(第三条)とし、他者を不安にさせる精神的加害行為を罰することができる画期的な法律だ。

ストーカー規制法の改正の経緯

法律は時代の先取りはしない。法改正は法律の網をかいくぐった事件が起きたタイミングで行われてきた。二〇一一年十一月の逗子事件では、メールの連続送信が規制対象でなかったため、事件前にストーカーから1400通を超えるメールが来たが民事的内容だったので再逮捕できなかった。これを受け2013年の第一回目の法改正でメールの連続送信が規制対象に追加された。二〇一六年十二月の二回目の法改正は、同年五月に発生した小金井の殺人未遂事件を契機にしたもので、TwitterやLINE等のSNS等でのメッセージの連続送信とブログ等への執拗な書き込みが規制対象となった。同時に前述の禁止止命令が緊急の場合は事前の警告や聴聞等を経ずとも発令可能となった。

2021年改正の意義とストーカー規制法の限界

ストーカー規制法は「特定のものに対する恋愛感情その他好意の感情またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的」(第二条)でなければ規制しない。友情でも師弟愛でもネットで見つけた誰かへの憧れでも良い、とにかく対象に対して一度でも好意を持ったことがなれば規制対象とはならない。憎悪や自罰意識から謝罪し続けるなどの行為も規制外だ。世界のストーカーを取り締まる法律にはこういった「動機縛り」は見当たらない。ストーカー規制法の限界の一番目に「動機縛り」をあげたい。

限界の二番目は、つきまといの手段の変化に法律が先回りして規制をかけることはできないということだ。今回の改正で「GPS等を用いた位置情報の無承諾取得等」が規制されることになった。「通常所在する場所」に加えて、「現に所在する場所の付近における見張り等」も加わった。また、これまで脅迫や暴言等の文言がない限り規制対象でなかった文書の送付も、内容にかかわらず「拒まれたにも関わらず連続して文書を送付する行為」を規制することになった。

今、悩ましいと感じるのはストーカーが自らのSNS上で行う脅迫的な発言だ。相手の氏名は書かずに「あいつを殺したい」などと書く。行政指導的な警告をしてくれることもあるが正式の警告は不可能だとされる。あるいは、国際化。海外からのストーカー行為にはストーカーが入国しない限り警告は出ない。今後、国際間のストーカー行為は増えていくだろう。できればストーカー規制法の運用状況を把握する会議を法律家や現場の警察官等を交えて定期的に行い、素早い改正ができるようにしておいてもらいたい。

ストーカー規制法の限界の三番目は、禁止命令や処罰を受けても止めないストーカーがいることだ。禁止命令書の受領拒否が発生するようになり、今回の改正法では「禁止命令等について、書類を送達して行い、住所、居所が明らかでない場合には公示送達とする」ことになった。施行規則で少なくとも禁止命令期間中のストーカーは居所を警察署に届け出なければならないとすべきではないか。

司法と医療の連携の必要性

私の経験では警告や処罰を受けても一割程度のストーカーは行為を止めることができない。やめたくでもやめられないというストーカーがいる限りストーカー規制法が改正を重ねても犯罪は防げない。やめられないという疾患性へのアプローチが必要だ。刑罰か医療かという問題ではなく、どちらも必要であり、ストーカーを医療にどうつなげるか、どの治療法につなげるべきかという問題が横たわっている。

すべてのストーカーに治療が必要だということではない。現に警告だけでも、弁護士の出す内容証明だけでも、カウンセリングだけでも心の方向転換ができるストーカーもいる。しかし、一割ほどいる行動制御不能で衝動性の高いストーカーには治療は義務づけてでも受けさせるべきであり、議論を望むが、現実は遠い。

被害者保護の広がりと充実

ストーカー対策の両輪は加害者対策と被害者保護だ。徳島県警のホームページに「被害防止テスト」という秀逸なものがアップされている。警察は敷居が高いと思う被害者、悩みすぎて誰にも相談できない被害者、また相談者の大多数は女性と言われるが相談を自粛している男性被害者もおり、こうした情報が入手できるようになったことは喜ばしい。警察以外にも自治体の相談窓口、法テラス、民間の相談機関は多くの相談者が訪れることを待っている。さらに、子どもがストーカー行為をしていると途方に暮れる家族の相談やストーカー自身の相談を受けつける機関が増えれば被害防止につながるだろう。

警察は危険な事案では被害者に判断を任せてはいけない。報復を恐れ警察の指示を聞かなかったり「何しないでほしい」と懇願する被害者もいる。こういう被害者は心理的危険度が高いと見、正しい選択ができるよう影響力を与えないといけない。

最も危険度の高いのはマインドコントロールされた被害者だ。監禁され搾取を受けている被害者は、「自分は被害者ではない」と言い張った。社会にはまだまだ隠れたストーカー被害者がいる。彼らが命を落とす前に救い出すにはどのような法整備が必要か、ストーカー規制法という枠を超えた議論も必要ではないかと感じている。